大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)35号 判決

東京都港区南青山二丁目三〇番九号

原告

秋元吉次郎

右訴訟代理人弁護士

安田秀昭

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被告

麻布税務署長

梶山正哉

右指定代理人

鈴木芳夫

川口秀憲

中川廣

池本征男

右当事者間の標記事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告が原告に対し昭和四五年三月一一日付でなした昭和四二年分所得税更正処分及び重加算税賦課決定(いずれも裁決により一部取消された後のもの)を取消す。

二、被告が原告に対し昭和四五年一一月二八日付でなした昭和四四年分所得税更正処分及び重加算税賦課決定(いずれも裁決により一部取消された後のもの)を取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二原告の請求原因

一、原告が昭和四二年分及び昭和四四年分の各所得税についてなした確定申告、不服申立、並びに被告の右所得税についてなした更正、異議決定、裁決等の日時及び各内容は次表のとおりである。

(昭和四二年分所得税)

〈省略〉

(昭和四四年分所得税)

〈省略〉

〈省略〉

二、しかしながら、被告のなした昭和四二年分及び昭和四四年分の各所得税更正処分並びに重加算税賦課決定(いずれも裁決により一部取消された後のもの-以下一括してこれを「本件各処分」ともいう。)は違法であるから取消を求める。

第三、請求原因に対する被告の認否及び主張

(認否)

一、請求原因一は認める。

二、同二は争う。

(主張-各係争年分の課税根拠)

〔昭和四二年分〕

被告は、原告の昭和四二年分の総所得金額を二四、八三八、七四八円(裁決により一部取消後のもの。以下同じ。)としたが、そのうち原告が争わないとしている不動産所得の金額九九七、八二八円を除き、残る事業所得の金額二三、八四〇、九二〇円の根拠について次のとおり主張する。

一、原告は、昭和四一年一月二五日に宅地建物取引業を営む免許(免許番号(1)二九七一)を受け、以降東京都北区豊島八ノ一七ノ九に新田不動産の屋号で事務所を設け、不動産の売買並びにその媒介等を業としている者である。

二、本件事業所得にかかる課税処分の根拠たる事実は、次のとおりである。

1 原告は、昭和四二年六月二日原告所有の東京都大田区南千束二〇八番一所在の宅地一、一五七・〇二平方メートル(三五〇坪)及び同地上の建物三七三・五五平方メートル(一一三坪)〔以下、これらの物件を「大田区の物件」という。)を訴外藤本幸枝に四七、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡したことにより、右金額より必要経費二四、〇〇〇、〇〇〇円を控除した差額二三、〇〇〇、〇〇〇円の所得を得た。

右譲渡収入金額及び必要経費の金額を算出した根拠は次のとおりである。

(一) 収入金額四七、〇〇〇、〇〇〇円について

大田区の物件の譲渡価額は、次に述べる(1)、(2)、(3)の金額を合計した四七、〇〇〇、〇〇〇円である。

(1) 売買契約締結の日に手付金として受領した金額五、〇〇〇、〇〇〇円

(2) 昭和四二年一二月六日受領した金額四〇、五〇〇、〇〇〇円

右金額のうち二八、〇〇〇、〇〇〇円は小切手で、一二、五〇〇、〇〇〇円は現金で受領し、いずれも同日住友銀行青山支店の原告の普通預金等に預け入れられたものである。

(3) 相殺金 一、五〇〇、〇〇〇円

右は、原告が、本件物件の売買代金として藤本幸枝から受領すべき金額のうち別途右両者において締結された建物売買契約〔藤本幸枝は、原告から大田区の物件にかかる土地建物を取得し、建物の方を取りこわし、右土地上に鉄筋コンクリート建の分譲住宅を建築して同建物の二階中央部一戸分(専用坪数二一坪)を四、二〇〇、〇〇〇円で原告に分譲するという契約〕に基づいて、原告か右藤本幸枝に支払うべき金額のうち、一、五〇〇、〇〇〇円と相殺したものである。

(二) 必要経費(取得費)二四、〇〇〇、〇〇〇円について

大田区の物件の取得の経緯は、次のとおりである。

原告は、昭和三七年一二月一三日頃前記藤本幸枝及びその夫藤本利男に対し、弁済期を昭和三八年三月二日として二四、〇〇〇、〇〇〇円を融資したが、その際、右債権を担保するため、右藤本幸枝との間において当時同人の所有であつた大田区の物件に関し、弁済期までに債務が完済されないときは、原告においてこれを譲受ける旨の契約を締結するとともに、同年一二月一四日付で当該物件について所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

そして、その後、右藤本夫妻は弁済期までに二四、〇〇〇、〇〇〇円の債務を弁済しなかつたので、原告は前記契約に基づき、昭和三八年六月一〇日予約完結の意思表示をしてその所有権を取得するとともに、同年同月一三日所有権移転の本登記を経由した。

以上のとおり、大田区の物件は前記二四、〇〇〇、〇〇〇円の債権の代物弁済として原告が取得したものであるから、右二四、〇〇〇、〇〇〇円が、右物件の取得価額というべきである。

2 原告は、昭和四二年二月二三日、原告所有の東京都足立区新田三ノ六ノ一所在の宅地一二二・八〇七平方メートル(三七・二四坪)〔以下「足立区の物件」という。〕を訴外南部明夫に二、五〇五、〇〇〇円で譲渡したことにより、右譲渡収入金額から必要経費金一、九四二、〇八〇円を控除した差額金五六二、九二〇円の所得を得た。

なお、原告は、右所得につき、譲渡所得として申告し、被告は、右物件の譲渡収入金額及び必要経費については、原告の計算をそのまま認めたのであるが、後記三のとおり、右所得は事業所得に該当するのでこれを更正することとしたわけである。

3 原告の確定申告にかかる事業所得 二七八、〇〇〇円

右は、原告が昭和四二年分の事業所得として申告した金額を被告が是認したもので、右金額の計算根拠は、次のとおりである。

収入金額 一、一五八、〇〇〇円

必要経費 八八〇、〇〇〇円

差引所得金額 二七八、〇〇〇円

以上のとおりであるから、昭和四二年分の事業所得は、右123の合計二三、八四〇、九二〇円である。

三、被告が前記二の1の大田区の物件及び二の2の足立区の物件の譲渡にかかる所得を事業所得と認定した根拠について

所得税法三三条二項一号によれば、資産の譲渡による所得であつても、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得については、譲渡所得から除外される。

ところで、本件においては、原告が不動産の売買並びにその媒介等を業とする宅地建物取引業者であること、本件売買物件のうち大田区の物件は貸付金の代物弁済として取得したものを処分したもので、取得から処分までの期間はわずか四年であること、また、足立区の物件も昭和三九年に取得したものをわずか三年で処分したものであること、そして右両物件はいずれも右期間中原告の居住ないし事業の用に供されていなかつたこと、さらに、原告は、本件係争年度以降においても継続して不動産の売買を行なつていることなどの事実が認められ、右諸事実を総合して考えれば、右両物件はいずれも原告が販売の目的で保有していた商品、すなわちたな卸資産ということができるから、右物件の譲渡による所得が譲渡所得ではなく、原告の行なう不動産の売買(債権の代物弁済としての不動産の取得、並びにその処分を含む)並びにその媒介等を目的とする事業から生ずる所得、すなわち、所得税法二七条一項所定の事業所得に該当することは明らかである。

四、原告の申告にかかる譲渡所得の金額がないこととした根拠について

原告は、原告所有の東京都品川区五反田五ノ五七ノ四九所在の宅地九一三・六八平方メートル(二七六・三九坪)及び同地上の未完成建物〔以下、これらの物件を「品川区の物件」という。)並びに前述の足立区の物件を昭和四二年中に譲渡したとし、その譲渡所得の合計額を五、一六四、七一〇円と計算し原告の昭和四二年分の所得税の確定申告をしている。

しかし、被告の調査したところによれば、品川区の物件の譲渡は、実際には行なわれておらず、また、足立区の物件の譲渡は、前記のとおり原告の不動産売買等の事業の一環として行なわれたもので事業所得にあたるので原告が申告した右譲渡所得は存在しない。

五、重加算税の賦課決定の根拠について

1 原告は、大田区の物件の譲渡価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円、同物件の取得価額は三〇、〇〇〇、〇〇〇円であるとして確定申告書を提出した。

2 そしてその後原告に対する被告の調査に際しても原告は、右物件の譲渡価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約書を提示して右物件の譲渡価額は三三、〇〇〇、〇〇〇円であると申し立て、また右物件の取得価額についても、同物件は、昭和三七年一二月一三日右藤本幸枝から訴外小林正男が取得したものを、同年同月同日に右小林正男から原告が三〇、〇〇〇、〇〇〇円で取得したものであるとしてそれにそう売買契約書を提示し、同物件の取得価額は三〇、〇〇〇、〇〇〇円であると申し立てた。

3 しかし、被告の調査したところによれば、右物件の譲渡価額は前述二1(一)のとおり四七、〇〇〇、〇〇〇円であり、右譲渡価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約書は右物件の譲渡価額を過少に仮装したものと認められ、また、右物件の取得価額についても前述二1(二)のとおり原告が右藤本幸枝から二四、〇〇〇、〇〇〇円の代物弁済により取得したものであるにもかかわらずその事実を偽り、右物件の取得価額を過大に操作したことが認められる。

4 右の事実は、国税通則法六八条一項にいう「……国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告を提出していたとき……」に該当するので、被告は、原告に対し右法条に基づいて重加算税を賦課決定したものである。

〔昭和四四年分〕

被告は、原告の昭和四四年分の総所得金額を一四、一〇三、四一四円(裁決により一部取消後のもの。以下同じ。)としたが、そのうち原告が争わないとしている不動産所得の金額一、三七一、一二九円を除き、残る事業所得の金額一二、四九三、一六〇円及び雑所得の金額二三九、一二五円の根拠について次のとおり主張する。

一、本件事業所得にかかる課税処分の根拠たる事実は、次のとおりである。

1 原告は、昭和四四年一月はじめころ、原告所有の東京都品川区五反田五ノ五七ノ四九の宅地九一三・六八平方メートル(二七六・三九坪)〔以下、この宅地を「品川区の物件」という。なお、この地上には未完成の建物が存在していた。〕を訴外千栄住宅株式会社(以下「千栄住宅」という。)に四一、一一四、七〇〇円で譲渡したことにより(ただし、登記簿上千栄住宅に関する移転登記は省略されている)、右譲渡収入金額から必要経費三四、五六二、七七〇円を控除した差額六、五五一、九三〇円の所得を得た。右譲渡収入金額及び必要経費の金額を算出した根拠は次のとおりである。

(一) 収入金額四一、一一四、七〇〇円について

右品川区の物件の譲渡にかかる収入金額は、原告が昭和四四年分の譲渡所得の収入金額として申告した金額を被告が是認したものである。

(二) 必要経費三四、五六二、七七〇円について

品川区の物件の譲渡にかかる必要経費は、次に述べる(1)(2)の金額を合計した三四、五六二、七七〇円である。

(1) 取得費 三四、五〇〇、〇〇〇円

品川区の物件の取得の経緯は次のとおりである。

ア 右物件は、もともと訴外東日開発株式会社(以下「東日開発」という。)の所有であつたものを、訴外三宅勘一(以下「三宅」という。)が譲り受け、さらに右三宅と訴外藤本利男(以下「藤本」という。)との間に一たん売買契約がなされたが、買主たる藤本が右物件を訴外七十七銀行へ転売する話をすすめたところ、当時右物件上にあつた未完成建物の所有権保存登記をめぐつて訴外渡辺建設株式会社(以下「渡辺建設」という。)対東日開発との間に争いがあり、また右物件自体に関しても、その売買契約解除をめぐつて三宅対訴外ミニマンラジオ株式会社(以下「ミニマンラジオ」という。)との間に争いがあり、いずれも訴訟事件として係属中であつたため、結局藤本の右転売工作は失敗し、その結果三宅対藤本の右売買契約も解除されるにいたつた。

イ ところで原告は、右三宅と藤本との売買契約の際、藤本が三宅に支払つた手附金六、〇〇〇、〇〇〇円を藤本に融資した関係から、前記のような経緯を知り、右六、〇〇〇、〇〇〇円の回収に乗じ、右物件を取得してマンシヨンを建設し分譲しようと考え、右訴訟事件を原告自らの手で解決すること等を別途約して昭和三八年一〇月九日付で三宅との間に右物件を二〇、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける旨の契約を締結した。

ウ そして、原告は右物件の利害関係人である渡辺建設及びミニマンラジオと折衝し、右各訴訟事件の調停において、原告が渡辺建設に対しては一〇、〇〇〇、〇〇〇円、また、ミニマンラジオに対しては四、〇〇〇、〇〇〇円の示談金を支払うことで右事件を解決した。

エ ところで、三宅に対する前記売買代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払について、原告は、手附金として支払つた八、〇〇〇、〇〇〇円(原告が藤本に融資し手附金として支払つた金額を振替えた分と、右訴訟事件の調停工作費等の費用として三宅が負担することを約し手附金に充当された二、〇〇〇、〇〇〇円の合計額)及び一二、〇〇〇、〇〇〇円を昭和四四年四月ころから翌四五年五月ころにかけて三宅に支払つた。

なお、その際原告は、三宅の懇請により、三宅が東日開発に支払うべき五〇〇、〇〇〇円を右一二、〇〇〇、〇〇〇円に加えて支払つた。

オ したがつて、品川区の物件の取得費は次の金額の合計三四、五〇〇、〇〇〇円であるということができる。

(ア) 渡辺建設株式会社に対する示談金 一〇、〇〇〇、〇〇〇円

(イ) ミニマンラジオ株式会社に対する示談金 四、〇〇〇、〇〇〇円

(ウ) 手附金 八、〇〇〇、〇〇〇円

(エ) 右手附金以外の三宅に対する支払金 一二、五〇〇、〇〇〇円

(2) その他の必要経費 六二、七七〇円

右金額は、品川区の物件に対する昭和四四年分の固定資産税である。

2 原告は、昭和四四年三月三一日原告所有の東京都新宿区赤城下町二一ノ一及び同二一ノ三番地の宅地合計三〇五・七八平方メートル(九二・五坪)〔以下これらの宅地を「新宿区の物件」と総称する。なおこの地上には一四〇・〇五平方メートル(四二・三坪)の建物が存在していたが、訴外新宿区に譲渡する際取りこわした。〕を訴外新宿区に二〇、七二三、八五〇円で譲渡したことにより、右譲渡収入金額から必要経費一四、三一七、一二〇円を控除した差額金六、四〇六、七三〇円の所得を得た。右譲渡収入金額及び必要経費の金額を算出した根拠は、次のとおりである。

(一) 収入金額二〇、七二三、八五〇円について

右新宿区の物件の譲渡にかかる収入金額は、原告が昭和四四年分の譲渡所得の収入金額として申告した金額を被告が是認したものである。

(二) 必要経費一四、三一七、一二〇円について

(1) 取得費 一二、七〇五、八二〇円

新宿区の物件の取得の経緯は、次のとおりである。

ア 原告は、昭和四二年二月一六日頃訴外荻野信之(以下「荻野」という。)に対し、無利息で一二、七〇五、八二〇円を融資したが、その際、右債権を担保するため、右荻野との間において、同人の所有であつた右物件について、昭和四二年二月二二日売買予約契約を締結し、同日付で右物件に原告のための売買契約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

イ そして、その後原告は、右荻野の金銭消費貸借契約不履行を理由に、昭和四二年七月四日頃予約完結の意思表示をして右物件の所有権を取得するとともに、同日付で所有権移転の本登記を経由した。

ウ 以上のとおり、新宿区の物件は、原告が前記一二、七〇五、八二〇円の債権の代物弁済として、右荻野から取得したものであるから、右一二、七〇五、八二〇円が右物件の取得費というべきである。

(2) その他の必要経費一、六一一、三〇〇円について

新宿区の物件の譲渡に関して要した(1)以外の必要経費は、次のとおりであり、これらの金額は原告の計算をそのまま認めたものである。

ア 仲介手数料 九〇〇、〇〇〇円

イ 取こわし費用 四三〇、七五〇円

ウ 固定資産税 四一、六八〇円

エ 登記料 一〇五、七〇〇円

オ 不動産取得税 一三三、一七〇円

3 原告は、前記1の所得について、粗税特別措置法三一条に規定する長期譲渡所得として、また、前記2の所得については、同法三二条に規定する短期譲渡所得として申告しているが、右所得は、後記二のとおり事業所得に該当するので、被告は、所得の種類を事業所得としてこれを更正したものである。したがつて、原告が申告した右譲渡所得はいずれも存在しない。

4 原告の確定申告にかかる事業所得 △四六五、五〇〇円

右は、原告が原告の事業にかかる昭和四四年分の事業所得として確定申告した金額を、被告が是認したもので、右金額の計算根拠は、つぎのとおりである。

イ 収入金額 二七四、五〇〇円

ロ 必要経費 七四〇、〇〇〇円

ハ 差引所得金額 △四六五、五〇〇円

5 以上のとおりであるから、昭和四四年分の事業所得は、前記1、2、4の合計一二、四九三、一六〇円である。

二、被告が、前記一、1の品川区の物件及び一、2の新宿区の物件の譲渡にかかる所得を事業所得と認定した根拠について

昭和四二年分の事業所得の認定根拠について述べたところのほかに、本件係争年分における売買物件のうち、品川区の物件は、もともと同業者が商品として保有していたものを、訴訟事件がからんでいることに乗じ、原告自らが事件に介入して紛争を解決し、これにより取得したものであること、また、新宿区の物件は、荻野へ融資した金銭の代物弁済として取得したものであるところ、取得後わずか一年八ケ月で処分されており、この間原告の居住ないし事業の用に供されていなかつたこと、などの諸事実を総合して考えれば、右両物件の譲渡による所得は譲渡所得ではなく、所得税法二七条一項所定の事業所得に該当することは明らかである。

三、本件雑所得にかかる課税処分の根拠は、次のとおりである。

原告の昭和四四年分の雑所得は、訴外小池文雄に対する貸付金利子八九、一二五円(これは原告が申告したものを被告が是認したものである。)と、以下に述べるとおり、訴外三宅勘一に対する貸付金利子と認められる金一五〇、〇〇〇円の合計二三九、一二五円である。

すなわち、原告は、訴外新那須興業株式会社代表取締役三宅勘一に対し、昭和四四年五月八日頃三、〇〇〇、〇〇〇円、同年六月三〇日頃二、〇〇〇、〇〇〇円を貸付け、同年九月頃三宅勘一から右貸付金の返済を受けたが、その際元金以外に一五〇、〇〇〇円の金員を受領しているので、被告は右一五〇、〇〇〇円の金員を、右金銭の貸付による利息ないし謝礼金と認めた。

なお、被告は、原告が金融業者でないところからこれらの所得を雑所得と認定した。

四、以上のとおり、原告の昭和四四年分の総所得金額は、前記一の5及び三の合計額に、原告が争わないとしている不動産所得金額一、三七一、一二九円を加えた一四、一〇三、四一四円であるから、その範囲内でなされた本件課税処分にはなんら違法な点はない。

五、重加算税の賦課決定の根拠について

1 品川区の物件の取得価額の過大操作

(一) 原告は、品川区の物件の取得価額を四〇、〇〇〇、〇〇〇円であるとして確定申告書を提出した。

(二) そしてその後の原告に対する被告の調査に際しても、原告は、右物件の取得価額は三宅に支払つた二六、〇〇〇、〇〇〇円と、示談金として渡辺建設とミニマンラジオに支払うべき一四、〇〇〇、〇〇〇円の合計四〇、〇〇〇、〇〇〇円であると申し立てそれにそう売買契約書等を呈示した。

(三) しかし、被告の調査したところによれば、右物件の取得価額は、前記一、1(二)、(1)で述べたとおり三四、五〇〇、〇〇〇円であり、にもかかわらず原告は、その事実を偽り右物件の取得価額を過大に操作したことが認められる。

2 新宿区の物件の取得価額の過大操作

(一) 原告は、新宿区の物件の取得費を二二、七〇〇、〇〇〇円であるとして確定申告書を提出した。

(二) そして、その後原告に対する被告の調査に際しても、原告は、右物件の取得価額について同物件は昭和四二年二月一六日訴外東急不動産株式会社から訴外荻野信之が取得(同会社の所有権は未登記であつたため前所有権者である住宅金融公庫から荻野信之に直接所有権の移転登記が行なわれている。)したものを、同年二月二二日に右荻野信之から原告が二二、七〇〇、〇〇〇円で取得したものであるとして、それにそう売買契約書を提示し、同物件の取得価額は二二、七〇〇、〇〇〇円であると申し立てた。

(三) しかし、被告の調査したところによれば、右物件の取得価額は、前記一、2、(二)、(1)で述べたとおり一二、七〇五、八二〇円であり、右物件は原告が荻野信之から一二、七〇五、八二〇円の代物弁済により取得したものであるにもかかわらず、原告はその事実を偽り右物件の取得価額を過大に操作したことが認められる。

3 右の1、2の事実は、国税通則法六八条一項に該当するので、被告は原告に対し右法条に基づいて重加算税を賦課決定したものである。

第四、被告の主張(本件各係争年分の課税根拠)に対する原告の認否及び反論

(認否)

〔昭和四二年分〕

一、被告の主張一のうち、原告が自己名義で宅地建物取引業を営む免許を受け、被告主張の場所に新田不動産の屋号の事務所を設けたことは認めるが、その余は否認する。

二、同二、1、(一)のうち、原告が大田区の物件を訴外藤本幸枝に譲渡したこと、手付金として五、〇〇〇、〇〇〇円、他に小切手で二八、〇〇〇、〇〇〇円を受領したことは認めるが、その余の点は否認する。

右物件の譲渡価額は三三、〇〇〇、〇〇〇円であり、必要経費は、被告の主張する二四、〇〇〇、〇〇〇円の他に、原告が訴外中村舜一及び小林正男に支払つた仲介料各三、〇〇〇、〇〇〇円(合計六、〇〇〇、〇〇〇円)を加えた三〇、〇〇〇、〇〇〇円である。

同二、1、(二)は認める。

三、同二、2のうち、原告が足立区の物件を被告主張のとおり譲渡し、所得を得たことは認めるが、右所得が事業所得に該当するとの点は争う。

四、同二、3は認める。

五、被告の主張三は争う。

大田区物件及び足立区の物件は、ともに原告個人の財産を処分したのであるから、その所得は譲渡所得であつて事業所得ではない。

六、被告の主張四のうち、原告が品川区の物件を譲渡していないこと、右譲渡所得につき昭和四二年分の所得税の確定申告をしたことは認めるが、その余の主張は争う。

七、被告の主張五のうち、1及び2の事実は認めるが、3及び4は争う。

〔昭和四四年分〕

一、被告の主張一、1、(一)及び(二)の事実は認める。

二、被告主張一、2のうち、原告が新宿区の物件を新宿区に譲渡したこと、右譲渡にかかる収入金額及び必要経費の各金額が被告主張のとおりであることは認める。しかし、原告が右物件を取得した経緯(すなわち被告の主張一、2、(二)、(1)のア、イ、ウにおいて原告が右物件を代物弁済により取得したとの点)は否認する。原告は同物件を居住用財産として取得したものである。

三、被告の主張一、3のうち、原告の申告にかかる譲渡所得が不存在との主張は争い、その余は認める。

四、同一、4は認める。

五、同二は争う。

六、同三のうち、訴外小池文雄に対する貸付金利子は認め、訴外三宅勘一に対する貸付金利子一五〇、〇〇〇円は否認する。

右金員は同人から貸付金利子としてではなく、贈与として受領したものである。

八、被告の主張四は争う。

九、同五の1のうち、(一)、(二)は認め、(三)は争う。

同五の2のうち、(一)、(二)は認め、(三)のうち、取得価額の過大操作したことは争い、その余は認める。

同五、3は争う。

(反論)

一、被告は、本件各係争年分における不動産の譲渡による所得税を事業所得であると主張するが、以下の理由により不当である。

すなわち、原告は昭和四一年一月二五日東京都北区豊島八丁目一七番一九号所在の建物を事務所として、新田(しんでん)不動産の名称で宅地建物取引業者の免許を受けた。しかし、右不動産取引業の実質上の経営者は原告の知人である望月幸太郎であつて、原告は同人が完全に独立経営できるまで免許の名義を貸したにすぎないものである。

望月は前記日時ころ、交通事故の被害により家族ともども困窮の生活状態にあり、原告は毎月同人に生活費を貸与していたところ、たまたま新田不動産と称する不動産屋の売物があつたので、原告がこれを買いとり、望月に営業させることとした。しかし同人には営業保証金の準備もなく、信用もないところから、原告が原告名義で保証金を供託して免許を受け、表面上は原告が経営者の体裁をとつたが、実質的には望月の経営に任せたのである。

以上の次第で、原告は不動産業者ではないのであるから、自己個有の不動産を処分してもたな卸資産の譲渡とはいえず、右処分による所得は事業所得とはなりえないものである。

二、仮に原告が新田不動産の事業主であるとしても、本件各係争不動産の譲渡による所得は、原告個有の資産の譲渡による所得であつて事業所得ではない。

1 先ず、昭和四二年分における大田区の物件を取得した経緯について述べると、昭和三七年一二月頃、原告は藤本利男に二四、〇〇〇、〇〇〇円を融資し、同人の妻幸枝から担保として大田区の物件の提供をうけていたところ、右貸付金の約定返済期限である昭和三八年六月二日を経過しても藤本夫妻から返済をうけられなかつたので、同年六月一三日に同物件の所有権取得の登記をしたものである。そして、右物件の取得時期は新田不動産の開業時期である昭和四一年二月二五日以前であるから販売の目的をもつて取得したものではないというべきである。ところで、右物件は藤本夫妻の買戻の要望に応じて昭和四二年六月二日藤本幸枝に代金三三、〇〇〇、〇〇〇円で売却したのであるが、同女は、その当時、夫利男との間に離婚話があり、実質上は夫利男の所有である大田区の物件を原告から買戻してそれを他に転売することにより収益を得たうえ離婚しようとしていたものである。そこで幸枝は夫利男の手前、原告から四七、〇〇〇、〇〇〇円で同物件を買戻したものとするために、原告から四〇、〇〇〇、〇〇〇円と記載した書面(乙第三九号証)を得たものである。

2 昭和四二年分における足立区の物件は、原告が昭和三九年二月一一日に訴外玉野井徳一から買受けたものであるが、その目的は、原告の資産を増加するためであり、販売するためではない。しかも同物件の取得は新田不動産を開業する以前のことである。

3 昭和四四年分における品川区の物件は、複雑な紛争の渦中にあつたところを、藤本利男の依頼により、原告が資金を出してこれを解決した際取得したものであつて、販売を目的として取得したものではない。

4 同年分における新宿区の物件は、原告が居住する目的で取得し、かつ一時居住したこともあるが、新宿区が児童公園用地として買収したい旨申入れてきたので、原告はこれに応じて売渡したものである。

第五、証拠関係

(原告)

一、証人望月幸太郎の証言

二、乙第一、二号証の成立は不知、第二二号証の二、第二三号証の二については原本の存在は認めるが、成立は否認する、その余の乙号証の成立(第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第一四ないし第一六号証、第一七号証の一ないし八、第一八号証の一ないし三、第一九、二〇号証の各一ないし四、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一、三、第二三号証の一、三、第二四ないし第二九号証の各一ないし三、第三〇号証の一ないし八、第三一、三二号証の各一ないし三、第三三号証、第三六号証の一、第三九ないし第四二号証については各原本の存在も含める)は認める。

(被告)

乙第一、二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし四、第九号証の一、二、第一〇ないし第一六号証、第一七号証の一ないし八、第一八号証の一ないし三、第一九、二〇号証の各一ないし四、第二一ないし第二九号証の各一ないし三、第三〇号証の一ないし八、第三一、三二号証の一ないし三、第三三ないし第三五号証、第三六号証の一、二、第三七ないし第四二号証を提出。

理由

請求原因事実一は当事者間に争いがないから、以下各係争年分についての各更正処分及び各賦課決定の当否について検討する。

第一、昭和四二年分の所得

原告の昭和四二年分の総所得金額についての被告の主張中、不動産所得金額及び事業所得金額二七八、〇〇〇円については原告もこれを争わないから、争点は、被告の主張する大田区の物件及び足立区の物件の譲渡にかかる所得金額の当否並びにその所得が事業所得に当るかどうかの問題である。そこで、先ず右所得金額の当否につき判断する。

(大田区の物件の譲渡金額)

一、原告が被告主張の大田区の物件を藤本幸枝に譲渡したこと、同女から手付金として五、〇〇〇、〇〇〇円及び小切手で二八、〇〇〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。

被告は、同物件の譲渡代金は四七、〇〇〇、〇〇〇円であると主張し、他方原告はこれを三三、〇〇〇、〇〇〇円であると争うのである。

二、大田区の物件は、原告において同物件を担保として藤本幸枝及びその夫藤本利男に対し融資した二四、〇〇〇、〇〇〇円の貸金債権の代物弁済として昭和三八年六月一〇日原告が取得したものであるところ(右物件の取得の経緯に関する被告の主張-昭和四二年分の課税恨拠二の1の□記載の事実-は当事者間に争いがない。)、成立に争いのない乙第一三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一七号証の一ないし四、第四〇号ないし第四二号証によると、藤本幸枝は大田区の物件を原告から買戻してこれを更に文化産業株式会社に転売するため、清水良三を仲介人として取引成立に奔走していたところ、昭和四二年一二月初旬原告から右物件を代金四七、〇〇〇、〇〇〇円で買戻し、即日これを文化産業(株)に代金四九、〇〇〇、〇〇〇円で転売した。そして、同契約成立と同時に藤本から原告へ五、〇〇〇、〇〇〇円が支払われ(右支払の事実は当事者間に争いがない。)、次いで、同年一二月六日藤本幸枝の取引銀行である東京相互銀行大森支店において、現金で一二、五〇〇、〇〇〇円、小切手で二八、〇〇〇、〇〇〇円が藤本から原告に支払われたこと、原告は同日右小切手を自己の取引銀行である住友銀行青山支店において通知預金として一三、〇〇〇、〇〇〇円、定期預金(六ケ月)として五、〇〇〇、〇〇〇円二口、定期預金(三ケ月)として五、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ入金したこと、残金一、五〇〇、〇〇〇円は藤本の原告に対する未払債務とする旨約定されたこと、以上の事実を認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、原本の存在並びに成立に争いのない乙第三九号証は、前記乙第一三号証によれば、原告が大田区の物件の売買代金として前記認定のとおり現金及び小切手で合計四〇、五〇〇、〇〇〇円を受領した際に、藤本幸枝の希望で原告が四〇、〇〇〇、〇〇〇円を受領した旨の受領書を原告に書かせたものであることが認められ、原告が主張するような経緯のもとに作成されたものとは認めがたい。

してみれば、大田区の物件の譲渡代金は四七、〇〇〇、〇〇〇円であると認めるのが相当である。

三、次に、前記のとおり原告が本件大田区の物件を藤本幸枝から貸金債権二四、〇〇〇、〇〇〇円の代物弁済として取得したことは当事者間に争いがないところ、原告はさらに、右物件を取得するに際し仲介人中村舜一及び小林正男の両名に仲介料として各三、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたと主張するのであるが、成立に争いのない乙第一二号証によれば小林正男が原告の主張するような仲介料を原告から受領したことのないことが認められるし、中村舜一が右仲介料を受領したとの点も、成立に争いのない乙第八号証の一ないし四によると、原告においてこれを係争年分にかかる確定申告書に記載したことが認められない以上、右記載と異なる事実、即ち右仲介料の支払いの事実は原告がこれを立証すべきところ、右事実を認めるに足りる証拠はない。

従つて、大田区の物件の取得価額は二四、〇〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

四、右の次第で、大田区の物件の譲渡による所得金額は、前記譲渡収入金額と取得価額との差額二三、〇〇〇、〇〇〇円である。

(足立区の物件の譲渡による所得金額)

原告が昭和四二年二月二三日南部明夫に足立区の物件を譲渡したことにより、五六二、九二〇円の所得を得たとの被告の主張(すなわち昭和四二年分課税根拠二の2の事実)は当事者間に争いがない。

第二、昭和四四年分の所得

原告の昭和四四年分の総所得金額についての被告の主張中不動産所得金額については原告もこれを自認するところである。

(品川区の物件の譲渡による所得金額)

原告が昭和四四年一月はじめころ、千栄住宅に品川区の物件を四一、一一四、七〇〇円で譲渡したこと、必要経費中、取得費がその取得の経緯のもとに合計三四、五〇〇、〇〇〇円を要したこと、右取得費以外の必要経費が六二、七七〇円であつたことは当事者間に争いがない。

従つて、同物件の譲渡による所得金額は、収入金額四一、一一四、七〇〇円から必要経費三四、五六二、七七〇円を控除した差額金六、五五一、九三〇円であることが認められる。

(新宿区の物件の譲渡の経緯及び譲渡による所得金額)

一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一、二号証、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、原本の存在並びに成立に争いのない同第四号証、第五号証の一、二によれば、原告が新宿区の物件を取得した経緯についての被告の主張事実(すなわち昭和四四年分の課税根拠一、2、(二)、(1)のア、イ、ウ)を認めることができる。

二、新宿区の物件について、原告が被告主張の日時にこれを新宿区に二〇、七二三、八五〇円で譲渡したこと、右譲渡にかかる必要経費のうち、取得費が一二、七〇五、八二〇円、仲介手数料等その他の必要経費が一、六一一、三〇〇円であることは当事者間に争いがないから、原告は右物件の譲渡により六、四〇六、七三〇円の所得を得たことが認められる。

(雑所得の金額)

一、原告が昭和四四年小池文雄から同人に対する貸付金利子として八九、一二五円を受領したことは当事者間に争いがない。

二、原告が昭和四四年九月頃三宅勘一から一五〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。原告は右金員を三宅から贈与を受けたものと主張するが、成立に争いのない乙第三四号証によると、右金員は原告が三宅に金員を貸付けたことに対する利息ないし謝礼金として授受されたものであることが明らかである。

三、他方原告は金融業を経営しているものではないから、前記金員(すなわち受領にかかる利息合計二三九、一二五円)の所得が雑所得に当ることは明らかである。

第三、各係争年分における各不動産の譲渡による所得の種類

一、原告が昭和四一年一月二五日原告名義で宅地建物取引業を営む免許を受け、東京都北区豊島八丁目一七番九号において新田不動産の商号で事務所を設置したことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一〇、一一号証、原本の存在並びに成立に争いのない第一四号証、証人望月幸太郎の証言によると、原告は昭和三七年六月五日宅地建物取引業者の登録をなし、同日ころから昭和四六年六月ころまでの間前記新田不動産の事務所において、知人であり宅地建物取引業法所定の取引主任者の資格を有する望月幸太郎を雇い、継続して不動産取引業を営んでいたことを認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、本件各係争年分における各不動産(四件)の譲渡の態様につき検討すると、各係争物件を譲渡した経緯について、すでに認定したとおり、原告が各不動産を取得して譲渡するまでの期間は二年ないし四年足らずの年月を経ているにすぎず、いずれも短期間であり、しかも不動産取引業を経営中の取引であること、原告は金融業の免許を受けてはいないものの、弁論の全趣旨によればかなり高額の金融を頻繁に行ない、本件各不動産も貸付金の代物弁済ないし清算の方法としてその所有権を取得したものであり、品川区の物件の如きは五者間で係争中にもかかわらず積極的に介入し、有利に取引を運んでこれを取得したものであることがその争いのない取得の経緯から窺われるし、さらに、右物件のいずれについてもこれを自己の居住ないし事業の用に供したことを認めるべき証拠は存しないのである。

三、前記一、二項の諸事実を総合すると、本件係争不動産はいずれも、原告がその経営にかかる不動産取引業において販売の目的で保有していた商品、すなわち所得税法二条一六号所定のたな卸資産ということができるから、右物件の譲渡による所得は譲渡所得ではなく、事業所得に該当するものというべきである。

四、以上の理由により、被告のなした本件各係争年分にかかる原告の所得税についての各更正処分はいずれも相当というべきである。

第四、各重加算税の賦課決定の当否

(昭和四二年分)

一、原告が昭和四三年三月一四日被告に対し昭和四二年分の所得税につき大田区の物件の譲渡価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円、同物件の取得価額を三〇、〇〇〇、〇〇〇円であるとして確定申告書を提出したことそして、原告に対する被告の調査に際して原告が被告主張の内容(課税根拠五の1、2)の申立をなしたことは当事者間に争いがない。

そして、右係争年度において、原告が大田区の物件を藤本幸枝に代金四七、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡したことにより必要経費二四、〇〇〇、〇〇〇円を控除した差額二三、〇〇〇、〇〇〇円の所得を得たとして、被告において原告に対し本件更正処分をしたこと、しかも右更正処分が相当であることはすでに説示したところである。

しかるに、原告は、確定申告書提出以来、終始右物件の譲渡価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円、取得価額を三〇、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するところ、成立に争いのない乙第一三号証によれば、原告は右売買契約の金額が四七、〇〇〇、〇〇〇円であるのにもかかわらず、相手方との間に作成した契約書中に、契約金額は三三、〇〇〇、〇〇〇円と記載するよう仲介人に希望してそのとおりの契約書を作成し、もつて右契約金額の一部を隠ぺいしたことが認められるのであるから、原告は右隠ぺいしたところに基づき前記確定申告書を提出したものと推認せざるをえないのである。

二、してみれば、以上の事実は、国税通則法六八条一項所定の重加算税を賦課すべき要件に該当するので、被告が原告に対し同法条に基づき重加算税を賦課決定したことは相当というべきである。

(昭和四四年分)

一、原告が品川区の物件につき取得価額を四〇、〇〇〇、〇〇〇円として、新宿区の物件の取得費を二二、七〇〇、〇〇〇円であるとして確定申告書を提出したこと、そして、その後の原告に対する被告の調査に対しても原告が被告主張の内容(課税根拠五の1の(二)及び2の(二))の申立をなしたことは当事者間に争いがない。

二、しかしながら、すでに説示したとおり、右品川区の物件の取得費が三四、五〇〇、〇〇〇円であり、新宿区の物件の取得費が一二、七〇五、八二〇円であることは原告において自認するところであるから、原告において右取得価額を故意に過大に仮装し、そして、右仮装したところに基づき確定申告書を提出したことは容易にこれを推認しうるところである。

三、そうすると、右事実は国税通則法六八条一項所定の重加算税を賦課すべき要件に該当するので、被告のなした重加算税賦課決定は相当といわなければならない。

第五、結論

以上の次第で、被告のなした本件各処分はいずれも相当であり、その取消を求める原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山下薫 裁判官 佐藤久夫 裁判長裁判官安部剛は転補につき署名捺印することができない。裁判官 山下薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例